BOGGYのイタリア料理と山と野草

イタリアファンのBOGGYが作って食べるイタメシのプログです。 登山、ピクニックのアウトドア・イタリアンはいかがでしょう。 革工芸も始めました。

過ぎたるは及ばざる

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イタリア料理という趣味を続けていると、自然に料理全般にも興味を持つようになって来ていた事に気が付いた。
その中で最近になって特に気になる事は、醤油を使った汁(つゆ)の変わり様である。
その一つが蕎麦汁の変わり様で、街の蕎麦屋に入っても鰹の匂いのプンプンする蕎麦汁が多くなった。


微妙で繊細な蕎麦の香りなどは何処吹く風で、鰹の出汁(だし)の味と匂いが大手を振って居座っているのだ。
出汁というものは、本来は主役の食材の味を引き立てることが役割で、黒子やせいぜいが脇役であって、主役をないがしろにしてもいいものではない。
煮物やうどん、蕎麦など醤油を使う時のダシは、鰹や煮干が良いのには理由がある。
元々、うまみの成分としては、グルタミン酸とイノシン酸が重要な成分で、みなさんご存知のように「味の素」の主要な成分はこのグルタミン酸だ。
イノシン酸は、このグルタミン酸と相乗効果を起こして、より食品のうまみを引き立てる効果があるもので、イノシン酸はここでもせいぜいが共演者であって主役ではない。
醤油には原料の大豆から醸造過程で沢山のグルタミン酸が生成されるので、鰹や煮干の持つうまみのイノシン酸が効用を発揮する。
醤油の汁には同じグルタミン酸の昆布を使っても、出汁としての効用はあまり無いのだ。こうして醤油の出汁としては鰹出汁の存在理由は明白で、不可欠のものには違いがない。
この主役ではない鰹の出汁を商品の宣伝の主役に置いて、大キャンペーンを打って、大ヒットを飛ばした食品がある。
今から三十数年前に発売された日清食品のインスタント蕎麦とうどんの「どん兵衛」である。
このたぬきうどんとてんぷらそばの二つのシリーズは、いかに贅沢に鰹出汁を使っているかを宣伝のポイントに新発売のキャンペーンを打った。
舌の鈍感な人でもこのつゆ汁には沢山の鰹出汁が使われていることか分かるほどに強い鰹出汁であった。
当時ヒットしていたテレビの金八先生をイメージキャラクターに採用したせいもあって、これが大ヒットをしてたちまちインスタント蕎麦、うどんのトップの座を占めることになった。
こうして三十年も経つと、子供時代からこのどん兵衛を食べなれた人が立派な大人になった時代になって、この大人達が美味しい蕎麦屋のウンチクをネットで語る時も、「ここの蕎麦屋の蕎麦汁には、惜しみなく鰹出汁を使っている。」なとど誉めたりするようになった。
今では「株式会社どん兵衛」なるどん兵衛ファンのサイトまで出来て、社員(ファン)が20万人もサインアップしているのだ。ここまでくればどん兵衛も社会現象と言うことが出来る。
鰹出汁が、蕎麦の香りや、醤油の香りを押しのけてでもでしゃばるようになったのは、このどん兵衛現象のせいだと私は思う。
これと言って売りネタの無い町場の蕎麦屋のあるじも、客となる世間のこの趨勢には勝てず、次第に鰹出汁を強くせざるを得なくなっていったのだと思う。
こんな世の中へのせめてもの反発や強がりで、私が作る蕎麦汁は、蕎麦や醤油の引き立て役として鰹出汁がでしゃばらないようにしているが、作った蕎麦を供しながら、出汁の使い方の講釈をして、鰹の削り節をケチッている訳ではないと説明せざるを得ないのがとても悔しいのである。
日清食品の創業者である安藤百福は、美健賢食の理念のもとに、自ら「食」の源流を訪ね、その本質にせまる旅を行って、日本各地の気候風土に磨かれた郷土料理の調査に、多くの時間と精力を費やした人であったという。きっと食の本質を究めた方だっのだと思う。
この創業者の人と巨大化した会社の立場の違いで、大量生産、大量消費のためには、食の文化を変えてしまうようなマーケティング戦略を採用してでも大ヒットを飛ばしてしまうのだ。
過ぎたるは及ばざる。

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